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福岡地方裁判所 昭和50年(ワ)815号 判決 1977年11月18日

原告

山口広文

被告

親和運送こと神農一郎

ほか一名

主文

1  被告らは原告に対し、各自金一四五一万二五七一円および右金員の内金一三二一万二五七一円に対する昭和四九年九月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを一〇分し、その六を被告ら、その余を原告の負担とする。

4  この判決は第1項に限り仮に執行することができる。ただし、被告らがそれぞれ金五〇〇万円の担保を供するときは、当該被告に対する右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金二五〇〇万円およびこれに対する昭和四九年九月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四九年九月一〇日 午前一〇時五五分ころ

(二) 場所 福岡市中央区赤坂一丁目七番二三号

被告日鉄鉱業株式会社(以下被告会社という。)

福岡営業所正門付近

(三) 事故の態様

原告は、被告神農一郎(以下被告神農という。)の経営する親和運送の運転手として勤務していたが、右日時、場所において、右親和運送運転手訴外森浩二が、被告会社の従業員訴外有久某外一名の指示に従つて被告会社福岡営業所正門の門柱をトラツク(ダンプカー、以下同じ)を後退させて押し倒す作業に従事していた際、たまたま当日訴外森の運転助手をしていたことから、右トラツクの後方、正門付近に立つていたところ、突然門柱が押し倒されたため、左下腿を押しつぶされた。

(四) 傷害の程度

原告は、右事故の結果左下腿切断の傷害を受け、昭和四九年九月一〇日より同年一二月二八日まで一一〇日間の入院治療を、同年一二月二九日より昭和五〇年二月一四日まで通院治療をそれぞれ余儀なくされた。

2  責任

(一) トラツクを後進させて門柱を押し倒すといつた作業を行う場合、トラツクの運転者は、トラツクの周囲、とくに運転席からは死角にあたる荷台後方付近の人の動静には十分注意し、また、運転者に対しトラツクの後進の合図を行うものは同様に、トラツクの周囲、とくにトラツクが後進する方向にいる人の存在、動静に十分注意すべき義務がそれぞれ存在しているにもかかわらず、訴外森は後方の人の動静を確認することなく、後進の合図によつて漫然とトラツクを後進させた過失により、また訴外森に対し前記門柱をトラツクで押し倒す作業を指示した訴外有久外一名は、トラツク後方の正門付近に原告が立つていたにもかかわらず、訴外森に対し漫然トラツクの後進を指示した過失により、共同して原告に前記傷害を負わせた。

(二) 被告神農は訴外森を、被告会社は訴外有久外一名をそれぞれ使用するものであり、右訴外人らは各使用者の事業の執行につき、右過失により共同して原告に損害を与えたものであるから、被告らは各々民法七一五条による使用者の責任を負うものである。

3  損害

(一) 入通院中慰謝料 金三七万五〇〇〇円

入院期間 昭和四九年九月一〇日より同年一二月二八日

通院期間 同年一二月二九日より昭和五〇年二月一四日

(二) 入院諸雑費 金三万三〇〇〇円

入院一一〇日、一日あたり三〇〇円

(三) 逸失利益 金一七三二万二七二八円

(1) 口頭弁論終結時までの逸失利益 金四三万〇七六〇円

(イ) 口頭弁論終結時までの得べかりし利益 金三六九万六〇〇〇円

但し、昭和四九年九月一一日より昭和五二年五月一〇日までの三二カ月分とし、この間の毎月の得べかりし利益を、昭和四九年三月より同年六月までに原告が受け取つた賃金の四ケ月平均金一一万五五〇〇円とする。

(ロ) 口頭弁論終結時までに得た利益(損益相殺分) 金三二六万五二四〇円

労災法による障害特別支給金 金七五万円

労災法による障害補償年金 金一三三万二一六〇円

但し、昭和五〇年三月以降年六六万六〇八〇円を二年分

労災法による休業補償 金三二万三六二八円

労災法による休業特別支給 金七万六七四四円

福岡中央製版社勤務により得た賃金(昭和五一年四月一日以降) 金七八万二七〇八円

(2) 口頭弁論終結後の逸失利益 金一六八九万一九六八円

(イ) 労働能力喪失率 七九パーセント(後遺症五級)

(ロ) 年齢満二八歳 (昭和二四年一月一八日生)

(ハ) 就労可能年数 三九年

(ニ) 新ホフマン係数 二一・三〇九

(ホ) 逸失利益年額 金一〇〇万三四三七円

被告神農は昭和五二年度の新入社員の募集において、雇用条件として一八万円の給料を支給することを示しており、又昭和五〇年度の賃金センサスの二五歳から二九歳までの労働者の賃金年額は一八四万六八〇〇円であり、同年齢の運輸労働者の賃金年額は一八五万七三〇〇円である。右各事実よりすれば、本件事故がなければ原告は少なくとも年一八五万七三〇〇円以上の賃金を得たはずであり、一方原告が現在勤務している福岡中央製版社の給与年額は、八五万三八六三円であることから、その差額を逸失利益年額とした。

一、〇〇三、四三七×二一・三〇九×〇・七九=一六、八九一、九六八

(四) 後遺障害に対する慰謝料 金五〇〇万円

(五) 弁護士費用 金二五〇万円

4 結論

よつて、原告の総損害額は金二五二三万〇七二八円となるが、右金額の範囲内で金二五〇〇万円とこれに対する昭和四九年九月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金とを請求する。

二  請求原因に対する認否

1  被告神農

(一) 請求原因1の(一)、(二)は認める。

(二) 同(三)については、「たまたま当日訴外森の運転助手をしていたことから」「突然」「左下腿を押しつぶされた」「正門付近に立つていたところ」とある部分は争う。その余は認める。

(三) 同(四)については、「左下腿切断」とあるは不知(左下肢切断と聞いている。)。その余は認める。

(四) 同2の(一)、(二)は争う。

本件作業現場には、被告会社の社員有久他数名が立会しており、訴外森は訴外有久の指示に従い、ダンプカーを後進させたものであり、これに過失を認むべきものではない。

そもそも本件事故を惹起した作業は、訴外森が被告会社の依頼により被告神農の承認を受けることなく、独断で個人的に被告会社の補助者として労務を提供し、かつ被告神農所有の機材(自動車)を使用し、被告会社の構内において、被告会社の従業員の立会の下に行つたものであつて、右自動車も完全に被告神農の監理を離れて被告会社の監理下にあつたものであるから、本件作業は被告会社が自ら行つた作業であつて被告神農の事業の執行とはいえず、従つて、被告神農に民法七一五条の責任はない。

仮に、被告神農と被告会社の双方が損害賠償義務を負担するとしても、前記諸事情よりすれば、本件事故の発生については、被告会社にその原因の殆んどすべてがあるから、被告神農について単純な不真正連帯債務を認めるべきでない。

なお、右のとおり、被告神農としては原告に対し損害賠償の義務はないが、原告が生活に困つていることを考え、昭和四九年一〇月一日に原告の入院費用金二万二三五六円を支払い、その後生活費として昭和五〇年四月一〇日までに六回合計金二一万円を支払つた。

(五) 同3のうち、(三)(1)(ロ)は認めるが、その余は不知。

障害補償年金については、口頭弁論終結後についても、確定した原告の債権であるから控除さるべきでない。

2  被告会社

(一) 請求原因1の(一)、(二)は認める。

(二) 同(三)のうち、「被告会社の従業員訴外有久某外一名の指示に従つて」、「突然門柱が押し倒された」とある部分は否認する。「原告は被告神農の経営する親和運送の運転手として勤務していたが」、「たまたま当日訴外森の運転手をしていたことから」、「右トラツクの後方、正門付近に立つていたところ」とある部分は不知。その余は認める。

(三) 同(四)は不知。

(四) 同2は、被告会社が訴外有久の使用者であることのみ認めて、その余は争う。

訴外有久は、訴外森にトラツクで門柱を倒してくれるよう頼んでからは只見物していたにすぎない。本件事故発生は、原告が、トラツクを後進させて門を押し倒す作業をしていた訴外森の助手として、トラツクの発進、方向について指示誘導の合図を手伝つていた際、門柱がトラツクで押し倒される危険な位置に不注意にもいたという原告の過失に基くものであり、仮にそうでないとしても、訴外森の、トラツクの後部で門柱を押し倒す作業をすることを原告にはつきりと言わなかつた過失及び後方の安全を十分に確認してから発進しなかつた過失並びに原告の、訴外森や周囲の者の状況行動から原告としては当然作業内容が理解できた筈であるのに不注意によつてこれに気付かなかつた過失が相俟つて発生したものであり、原告の被告会社に対する本訴請求は理由がない。

(五) 同3のうち、(三)(1)(ロ)は認めるが、その余は不知。

障害補償年金については、その額が将来にわたつて減額されることの考えられない本件においては、原告の確定債権として逸失利益から現在額を基準として控除すべきものと考える。

三  被告らの抗弁(過失相殺)

仮に、被告らに損害賠償義務が認められるとすれば、原告は、本件事故の発生に関し重大な過失があるから、その損害の算定にあたつてはその過失が斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

被告らの抗弁は否認する。原告は最後まで本件作業の内容についてまつたく知らず、又トラツクで門柱を倒す作業は通常異常のことに属し、知りえなかつたことに過失があつたとはいえない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の(一)・(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件事故の態様について検討する。

1  当事者間に争いのない事実と、成立に争いのない甲第四号証、証人森浩二、同仲江久三男、同北島諒三、同有久秀之助の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件事故に至るまでの経過

(1) 被告会社は、その福岡営業所の正門の門柱が車の出入りに不便であることから、トラツクに頼んで倒すことになり、昭和四九年九月九日の夕刻ころ、被告会社の従業員訴外有久が同社久山砕石場に電話し、同砕石場の配車係である訴外笹川に明朝トラツクを一台営業所に回してくれるよう頼んだ。

(2) 翌一〇日の朝、訴外笹川は、被告神農の経営する親和運送にトラツクの運転手として勤め、右親和運送より久山砕石場に仕事に来ていた訴外森に対し、福岡市西区野芥まで砕石を運ぶ途中に福岡営業所に立ち寄るよう指示した。その際、訴外森は、訴外笹川より立ち寄る目的については何も聞かなかつたが、同営業所付近は道路が狭く、駐車禁止となつていることから警察が来た場合、車を移動をする必要があることから、同僚(親和運送に勤務するトラツクの運転手)の原告にその旨伝えて助手として乗り組むように指示した。

(二)  本件事故の状況

(1) 訴外森が運転するトラツクが福岡営業所に到着すると、訴外有久が出てきて、訴外森に下車をうながし、右営業所の正門の門柱のところへ連れて行き、トラツクで右門柱を倒してくれるよう頼んだ。訴外森としては、このような作業は被告神農から命じられている本来の作業以外のものであるが、運送業者の従業員として他の業者の工事現場に行つた際に運送以外の雑役を頼まれることは時々あるし、特に被告会社は親和運送のよい得意先であるから、むげに右依頼を断るわけにも行かず、被告神農に連絡してその承認を得ることなく、自己の一存で右作業を引き受ける旨訴外有久に答えた。なお、被告神農は、自己の従業員が得意先でそのような雑役をすることについては、日頃それを奨励してはいなかつたとしても、禁じてはいなかつた。

(2) それから、訴外森は車内に戻つてすぐ作業にとりかかり、ハンドルを切つてトラツクの後部右角が門柱に当たるようにした。この時、原告が「何かしようか。」とたずねたのに対し、訴外森は「乗つてていい。」と答えた。訴外森は車体が門柱に直角になつたところでトラツクを止め、被告会社従業員の訴外仲江と同北島がタイヤを車体と門柱の間にあて、最初はゆつくり押したが倒れなかつた。そこで訴外森の判断で、一旦前進し、今度は勢をつけて倒そうということになつたが、車にシートがかけてあつたので、それを破れないようにするため訴外森は原告にシートをはぐるように指示した。原告は右指示に従つて車から降り、訴外森、同北島と共にシートの後部をはぐつた後その場に落ちていたタイヤを持つて車庫の入口の所に持つて行つた。それから、訴外森は再びトラツクの運転席に戻り、エンジンをふかし勢いをつけてトラツクを後退させ、訴外有久、同仲江、同北島が見守る中で、一気に門柱を押し倒した。その時、門柱の付近にいた原告は右下肢を門柱に押しつぶされた。

2  そこで次に、トラツクによつて門柱を倒すという作業内容を、原告が本件事故発生前に知つていたかどうかにつき判断する。

右認定事実によれば、訴外有久が訴外森にトラツクで門柱を倒す作業を依頼した言葉を車内にいた原告が直接聞き取ることはできず、その後においても、原告に対し、右作業内容をはつきり説明した上で手伝うよう指示したものはいなかつたものと認められる。

しかしながら、原告は、訴外森が被告会社福岡営業所において何か仕事をするというので、その手助けをするためにわざわざ同乗して来たのであるから、訴外森が右依頼を受けた後何をしようとしていたか全く無関心であつたとは到底考えられない。そして、前掲各証拠によれば、原告が居眠りでもしていない限り、訴外森が訴外有久から前記依頼を受け、トラツクを後退させ、訴外仲江らが営業所内から持ち出して来て門柱にあてたタイヤを緩衝物として門柱を押し倒そうとしていることを容易に知り得る位置に原告がいたこと、そして原告は当時居眠りはしていなかつたこと、シートをはぐつた後原告は門柱の後ろに立つており、トラツクの後部右側と門柱が重なり合つて、トラツクがそのまま真直に後退して来れば当該門柱に衝突することになる状況を認識していたこと、訴外森は日頃トラツクの中でもダンプカーばかりを運転していて運転が上手であり、トラツクを後退させて門内に入れようとして門柱に衝突させてしまうような低い技倆の持主でないことは原告も十分承知していたこと、その他訴外森がトラツクを後退させるのは門柱を倒すためではなく、それを門内に入れて積載していた砕石をおろすためであると原告が信ずるのは尤もだと思われるような事情はなかつたことが認められ、これらの事実に原告がトラツクの後部のシートをはぐつた後落ちていたタイヤを持つて車庫の入口の所に持つて行つたことを併せ考えるならば、原告はトラツクのシートをはぐつた頃には既に、訴外森がトラツクによつて門柱を倒す作業をしていることを知つたものと認められる。仮にそうでないとしても、前記認定の諸事情よりすれば、原告は遅くとも門柱の後ろに立つた時点において右の作業内容を知りうべき状況にあつたと認められるのである。

三  右のような事実関係に鑑み、被告らの責任について検討する。

1  訴外森、同有久の過失

トラツクを後退させて門柱を倒す作業は相当危険性を伴う作業であるから、トラツクを運転する者は勿論のこと、その者に必要な指示を与え、又は協力する者もトラツクの左右及び後方、並びに、右門柱の前後左右に人がいないことを確認してから右作業を進めるべき注意義務がある。

しかるに、訴外森は後方の安全を十分に確認することを怠り、トラツクを後退させて本件事故を惹起せしめたのであるから、運転者として右注意義務をつくさなかつた過失がある。

訴外森は「有久が手を振つて「オーライ・オーライ」と言いながら合図をしたので、それを信用してバツクした。」と証言しているが、前掲各証拠(森証言を除く。)によれば、門柱を倒す際は、訴外有久らは訴外森に指示ないし合図をすることなく右作業を見守つていたものと認められるのであつて、右証言をたやすく信用することはできないし、仮に訴外有久が合図をしたとしても、訴外森としては右合図を安易に信用することなく、自ら後方の安全を確認するとか訴外有久に念を押して安全を十分確認させるべき注意義務を負うものと解すべきである。

他方、訴外有久は、被告会社のために門柱を倒す作業を依頼し、訴外森が依頼どおりに右作業をするかどうかを見守り、必要に応じて指示ないし協力をするために、また、訴外仲江、同北島は必要に応じて訴外森に協力するために、その場に立ち会つていたにかかわらず、トラツクの後方の安全を十分に確認し、危険を事前に察知して直ちにそれを訴外森に伝えることを怠り、漫然とトラツクを後退させて本件事故を惹起せしめたのであるから、訴外有久らには右作業を指示する者としての、又は、作業実行者に協力する者としての前記注意義務をつくさなかつた過失がある。

結局、本件事故は、訴外森の右過失と訴外有久らの右過失が競合してこれを惹起せしめたものというべきである。

2  被告神農の責任

(一)  前記二1(一)(二)記載のとおり、訴外森は被告神農の経営する親和運送の従業員であり、被告神農の指示により、被告会社の久山砕石場へ行き、親和運送の業務として被告会社の砕石運搬の仕事に従事中本件門柱を倒す作業に従事したものである。

(二)  被告神農は、本件作業は、訴外森が被告会社の依頼により、被告神農の承認を受けることなく、個人的に被告会社の補助者として、被告会社の構内で、被告会社の従業員の立会の下になしたものであるから、被告神農の事業の執行にはあたらない旨主張する。しかしながら、本件作業は親和運送の得意先に対するサービスとして行われたものであるし、訴外森は被告神農の指示で業務として久山砕石場へ行き、そこで本来の仕事である砕石の運搬の途中に被告会社に頼まれて門柱を倒したものであつて、外形的に見ても親和運送の業務といいうるから、本件作業は被告神農の事業の執行につきなされたものと解するを相当とする。

(三)  そして、本件事故が訴外森の過失に基づき惹起されたものであることは前記三1記載のとおりであるから、被告神農は民法七一五条による責任を負うものとするのが相当である。

3  被告会社の責任

(一)  前記二1(一)(二)記載のとおり、訴外有久、同仲江、同北島は被告会社の従業員であり、訴外有久において同社久山砕石場の配車係訴外笹川にダンプカーを回してもらうよう依頼し、右笹川の指示により福岡営業所にやつてきた訴外森に本件作業を具体的に指示し、右有久、同仲江、同北島において本件作業に立会つて訴外森に協力したものである。

(二)  被告会社は、本件事故はもつぱら原告の過失によつて、仮にそうでないとしても訴外森ならびに原告の過失が相俟つて発生したもので被告会社に責任のない旨主張するが、本件作業が前述のような状況の下で、被告会社の従業員である訴外有久らの指示ないし立会の下におこなわれていることによりすれば、本件作業は被告会社の事業の執行としてなされたものというべきである。そして、本件事故が訴外有久らの過失に基づき惹起されたものであることは前記三1記載のとおりであるから、被告会社においても被告神農と共に民法七一五条の責任を負うものと解すべきである。

四  過失相殺

被告らは、原告にも本件事故の発生につき重大な過失がある旨主張するところ、前記二(特に2)記載の認定事実によれば、原告は自分の本来の職務ではなく、従つて馴れてもいない本件作業が行われる途中で受傷したものであるが、本件作業は比較的単純な作業であつてその危険性は容易に予知しうることができたものと思われるのであり、これらの事情に前記三1において判示した訴外森、同有久らの過失を考量勘案すれば、本件事故における原告と訴外森、同有久らとの過失割合は、訴外森、同有久らの六に対し、原告の四とするのが相当である。

五  損害額

当事者間に争いのない事実、成立に争いのない甲第一号証、第二号証、第三号証の一ないし四、第五号証、原告本人尋問の結果によれば、次の損害が認められる。

1  原告の逸失利益 一六九八万七九五二円

(一)  口頭弁論終結時までの逸失利益 九万五九八四円

(1) 口頭弁論終結時までの得べかりし利益 三九二万七〇〇〇円

原告は、昭和四九年三月から同年六月まで、被告神農の経営する親和運送より平均一一万五五〇〇円の賃金をうけとつていたことが認められるので、事故のあつた昭和四九年九月一一日より弁論を終結した同五二年七月二九日までの三四ケ月分がその得べかりし利益となる。

一一五、五〇〇×三四=三、九二七、〇〇〇

(2) 口頭弁論終結時までに得た利益(損益相殺分) 三八三万一〇一六円

原告は、口頭弁論終結時までに次のような利益を得たことが認められる。

(イ) 労災法による障害特別支給金 七五万円

(ロ) 労災法による障害補償年金 一三三万二一六〇円

但し、昭和五〇年三月以降年六六万六〇八〇円を二年分

(ハ) 労災法による休業補償 三二万三六二八円

(ニ) 労災法による休業特別支給 七万六七四四円

(ホ) 被告神農の支給した分 二一万〇〇〇〇円

(ヘ) 福岡中央製版社勤務により得た賃金 一一三万八四八四円

原告は昭和五一年四月より福岡中央製版社に勤務しており、弁論終結までに一一三万八四八四円の賃金を得たものと認められる(但し五二年三月以降はこの間の平均賃金月額七万一一五五円で計算した。)。

(3) よつて、口頭弁論終結時までの原告の逸失利益は、(1)より(2)を減じた九万五九八四円となる。

(二)  口頭弁論終結後の逸失利益 一六八九万一九六八円

(1) 原告は、本件事故により、左下腿を切断しており、これは後遺障害等級五級にあたり、七九パーセントの労働能力を喪失したと認めるのが相当である。そして、被告神農は昭和五二年度の新入社員の募集に際し、賃金一八万円を支払う旨新聞広告していることが認められ、これを年額にすると二一六万円となり、また、昭和五〇年度の賃金センサスによれば、年齢二五歳から二九歳の運輸労働者の年間平均所得は、一八五万七三〇〇円であるから、原告において本件事故がなければ少なくとも年収一八五万七三〇〇円はあつたものと認めるのが相当であり、他方、原告が現在勤務している福岡中央製版社の給与年額が八五万三八六三円であることが認められる。そうすると、その差額一〇〇万三四三七円を逸失利益年額と認めるのが相当である。原告は現在二八歳であり、就労可能年数を六七歳として、今後三九年は働けると考え計算したものから、新ホフマン方式(係数二一・三〇九)により中間利益を控除したものが弁論終結後の逸失利益となる。

一、〇〇三、四三七×二一・三〇九×〇・七九-一六、八九一、九六八

(2) 原告は現在も障害補償年金をうけているが、口頭弁論終結後のものについては未確定のものとしてこれを控除しないとするのが相当と考える。

(三)  以上よりすれば、原告の逸失利益は、(一)の結果に(二)を加算した一六九八万七九五二円となる。

2  入院諸雑費 三万三〇〇〇円

原告は、昭和四九年九月一〇日より同年一二月二八日までの一一〇日間入院し、その後も五〇年二月一四日まで通院治療していたことが認められ、この間の入院諸雑費として一日あたり三〇〇円を認めることができる。

3  慰謝料 五〇〇万円

本件事故による前記入通院日数並びに後遺症の程度その他本件に現われた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故により受けた精神的苦痛を慰謝すべき金額は金五〇〇万円をもつて相当とする。

4  過失相殺

以上により認められる損害額総額は二二〇二万〇九五二円となるが、前記のとおり過失相殺してその四割を減ずると損害総額は一三二一万二五七一円となる。

5  弁護士費用 一三〇万円

本件における諸般の事情を考慮するとき、被告らに負担させるべき弁護士費用は一三〇万円を相当と考える。

六  よつて、被告神農と被告会社は原告に対し、各自金一四五一万二五七一円及び右金員のうち一三二一万二五七一円に対する本件事故発生日である昭和四九年九月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、右の限度で原告の被告らに対する本訴請求を認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川井重男)

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